TITLE:はじめに
父の実家は、鮨屋でした。そんな環境で育った私は、祖母の昔ながらの手料理を食べ、母の台所の手伝いをするというのが日常でした。それは、季節の変化を敏感に取り入れた当時の「食」に囲まれていた幸運な環境だったと言い換えることができます。
現在は、毎朝の食事を作り、昼食は母の手作りを食べ、夕食は週のうち半分くらいを自分で作るといった、シンプルなもの。そこで私を助けてくれるのは、週2回分の主婦休業日に通う「しんとみ」。親方のヒロちゃんの手打ちそばが絶品のお店。
まずは「今日のおまかせコース」をお願いします。そして板前のソエちゃんの旬を取り入れた小皿に舌鼓を打ちながら、料理の話や下ごしらえのヒントが話題になり、実にたくさんの「食物語り」をしてきました。こんな日常を5年も続けているうちに、小皿の中味を胃袋に入れるだけではなく、記録に残したいと思うようになりました。
今はどこに行っても年中野菜が手に入る便利な時代。ただ引き換えに、蝉のなく暑い夏に、冷やしたきゅうりをほおばる旨さや、凍てつく冬にほかほかの大根で食道から暖をとるというような「旬の趣(おもむき)」が薄れてきたように感じます。
この連載では季節が巡る喜びと、昔祖母や父母に教えてもらった知恵の詰まった料理の作り方を思い出しつつ、日常の食卓にどうしても載せたいと願うレシピを私の絵と共に紹介します。料理人はソエちゃん、協力はヒロちゃんそして「しんとみ」です。
この連載のタイトルにした「DANDORI」という鳥をストーリーテラーに皆さんの食卓にも「食物語り」をお届けしたいと思いますのでお楽しみください。