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ルナ+ルナ

ソニアとロベールは夫婦としてともに暮らしつつ、アーティスト同士として時代を共有し、創作の理論を共有した。1937年のパリ万博(国際芸術技術博覧会)では、鉄道館と航空館の装飾を請け負ったロベールを支え、ソニアは壁画の制作に協力してもいる。とはいえ、ソニアは単にロベールの補佐やコラボレーションによる制作のみをしていたわけではない。ロベールが絵画や壁画で追求したものを、ソニアは日常生活の中で表現していったのだった。実際、ソニアの創作活動は絵画、書籍の装幀、ポスター、モザイク、ステンドグラス、舞台衣裳から、家具・テキスタイル・自動車・ファッション・トランプなどのデザインにまで及んでいるが、油彩、水彩、グワッシュ、鉛筆、クレヨン、インク、エッチング、リトグラフ、ポショワール(*6)などの多様な技法を自由に使って生み出したものは、すべて〈同時的(シミュルタネ)〉作品だった。ひたすら色を多用した〈円〉や〈四角〉を描いているのである。ソニアにとって周囲にあるものはすべて、響き合う色彩を探るためのカンヴァスだったといえるだろう。

現在では、2人のドローネはそれぞれ抽象絵画の創始者の1人として位置づけられ、パリ国立近代美術館をはじめ、世界各地で大規模な個展や2人展が次々に企画されてきた。日本でも、1979年11月から12月にかけて東京国立近代美術館で「ドローネー展 ロベールとソニア」が、2002年には東京都庭園美術館ほか各地で「ソニア・ドローネ」展が開かれた(*7)が、こうした本格的な展覧会の最初のものは、160点の作品が展示された1959年のリヨン美術館での2人展だ。

それに先立つ1940年代は、ソニアが困難を生き抜いた時代だった。第2次世界大戦の勃発により、世界中の多くの人びとが苦難を抱えた中で、ロベールは1939年初めから明らかに体調を崩していた。ソニアはロベールの作品の買い手を探したり、自分でつくったスカーフを売ったりして生活費や治療費を捻出しながらも、1940年6月にパリがナチス・ドイツ占領下におかれて以降、とくにユダヤ人としての出自を隠しての生活に身の危険を感じていたはずだ。竹原あき子氏の手になる伝記の中に抜粋されたソニアの日記(*8)を読むと、秋に南仏へ逃れた後、アメリカへ向かおうとしたが、ロベールの病の悪化により、国内に留まることにしたようである。

ロベールは1941年10月に56歳で他界。ソニアはその後の40年近くの人生を、ロベールの作品の重要性を世間に認知してもらうべく、美術関係者に働きかけると同時に、ロベールの絵画理論を実践する創作に捧げた。ソニアがロベールとその作品に心酔していたことは、2003年10月から2004年1月にかけてパリのポンピドゥーセンターが開催した、ソニアとシャルル母子の寄贈作品による2人展のカタログ(*9)中の、国立近代美術館主任学芸員ブリジット・レアルBrigitte Lealの記述からも明らかだ。

それによると、ソニアとシャルル母子が1964年、国立近代美術館に、1911年制作の記念碑的ベッドカバーやパリ万博鉄道館の模型を含む、絵画、デッサン、彫刻、レリーフ、版画、装幀書籍、モザイクなど114点に上る夫妻の作品を寄贈するに当たっては、ソニアから条件が付されていた。すなわち、作品はパリ市内の美術館で〈ドローネ寄贈作品〉として公開展示すること。地方の美術館に四散させたり、人の目に触れない場所に保管したりしないこと。

 

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*6 ポショワールpochoirはフランス語でステンシルのこと。文字や形を切り抜いた金属などの型紙の上から、絵の具やインクを刷り込む孔版の技法。

*7 作家ジャン・ガーデン・カストロJan Garden Castroがキュレーターを務めた「ソニア・ドローネSonia Delaunay: La Moderne」展は、2002年1月から9月まで、うらわ美術館、北海道立函館美術館、いわき市立美術館、東京都庭園美術館を巡回し、12月に米国ニュージャージー州立ラトガース大学付属ジェーン・ヴーヒーズ・ジマーリ美術館で幕を閉じている。

*8 『ソニア・ドローネ』(竹原あき子著、1995年、彩樹社)の第8章「ソニアの日記から」には、ソニアが1933年から69年までつけていた日々の記録の一部が抜粋されている。ソニアは77年、夫妻の作品やこの日記を含む原稿類をパリ国立図書館(現フランス国立図書館)に寄贈した。

*9 La donation Sonia et Charles Delaunay dans les collections du Centre Georges Pompidou, Musée national d’art moderne, 2003, Éditions du Centre Pompidou.

 

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