LUCAS MUSEUM|LUCASMUSEUM.NET|山本容子美術館


CAFE DE LUCAS


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ルナ+ルナ

その後、2000年9月にふたたびコート・ダジュールを訪れる機会があり、マティスがアメリカのバーンズ財団に依頼された壁画「ダンスLa danse」(1933年)を制作するため、1931年から33年までニースのデジール・ニエル通りにアトリエとして借りたところを見学した。縦が約4メートル、横が10メートル超の大作のため、セザンヌのように小ぶりな自宅兼アトリエでは描けなかったからだ。アトリエの大きさは作品の大きさによって左右されることがよくわかる。かつての倉庫は〈アトリエ・ソアルディ〉という現代美術のギャラリーとなっていた。
 前回は閉まっていたマティス美術館を訪ねて、ロザリオ礼拝堂の建物の模型(マケット)や、切り紙絵でつくったステンドグラスと祭服の習作、タイル画のデッサンを見る。ステンドグラスは最終的に決定するまでに2つの習作があったことがわかる。茶色の地に赤、黄色、青、白、黒、オレンジの正方形が散っている第1案から、第2案は茶色の地に青、赤、オレンジ、こげ茶、緑、黄色のサボテンとなり、最終案の〈生命の木〉で青、黄色、緑の3色に集約されたのだ。あらためて画家の仕事の粘り強さを知ることになった。ここで制作過程をたどることのおもしろさを実感し、もう一度、ロザリオ礼拝堂を訪ねたい気持ちが湧き上がった。きっと何度行ってもマティスの思考は新鮮に感じられ、彼への敬意がまた深まることだろう。
 花市や骨董市で賑わうサレヤ広場を散策し、ニース名物だというヒヨコマメの粉をオリーブ油で焼いた塩味クレープ〈ソッカ〉を食べた(*12)。そこから程近いシャルル・フェリックス広場へ行き、マティスのアトリエのあった黄色い建物を見上げた。90年前にはマティスもあそこから元気に下りてきて、同じソッカを食べたかもしれないと。



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*12 〈ソッカ〉という単語自体がニース方言。まさにニースならではの食べ物といえる。ほかに、ニース風サラダを挟んだサンドイッチ〈パン・バニャ〉、玉ねぎのピザ〈ピサラディエール〉も有名。

 

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