TITLE:【Others】コラム 世界文学の玉手箱
コラム
世界文学の玉手箱
ふと子供だったことを思い出すことがある。
昨年の11月13日に詩人谷川俊太郎さんが亡くなった。「あのひとが来て」という詩画集を作っていた頃を思い出し、彼の初詩集「二十億光年の孤独」を手に取る。この中から二篇の詩を選び絵を描いたのだった。ページをめくる。89ページ「ネロー愛された小さな犬に」の三遍を読み、手が止まった。
いつの間にか、ネロという犬が、ネロという少年に姿を変え、犬のパトラッシュが姿を見せた。心の冷たい世の中で貧しく生きる姿。雪の中の石畳の冷たさ。教会の中の大きな絵。雪の降りしきるクリスマスに、少年と犬が冷たくなっていた光景ーそのすべての冷たさを感じ取った私は、はじめて本を読みながら大きな声を出して泣いた。その本は「フランダースの犬」だった。
子供の頃に出会った物語は、いつもどこかにひょいと顔を出し、感情を揺さぶる。
山本容子
「にんじん Peil de carotte」1994年、ソフトグランド・エッチング、手彩色 15×10cm
「ピノッキオの冒険 Le adventure di Pinocchio」1994年、ソフトグランド・エッチング、手彩色 15×10cm