10 『おえかきがすきなのね


©️Yoko Yamamoto


母方の祖父は絵画鑑賞が趣味で、展覧会によく連れていってくれた。
私の楽しみは帰り道の天丼やうなぎだったのだけど、美術館のトイレの場所はしっかり覚えた。
父はというと、子供の頃先生にこう言われたという。
「犬ならもっと犬らしく描きなさい」
父は、「本当は馬を描いたんやけど」と言っていた。

私は絵を描くのは好きだった。祖父に買ってもらったクレヨン、クレパス、水彩絵の具。
どれもみんな色がキレイだったから。
でも、絵は習いに行かなかった。
3才からはじめた童謡、日本舞踊、バレエ、ピアノ、三味線と習い事の歴史は続くが、絵画教室はスケジュールになかった。
まわりの大人の趣味の世界が多様だったので、その時々の大人にあわせて私は習い事に励んでいた。
皆絵を描くのは苦手だったのね。
この事が「緑のキリン事件」をおこしたのだった。

幼稚園の時、動物園でおえかきをしていた。
ら、私は黄色と茶色のキリンを見ながら緑のキリンを描いた。
先生に理由を聞かれて、私は堂々と「だってキリンは草を食べたから」と答えた。
そして童謡を歌ったという。それは、北原白秋の
「赤い鳥小鳥 なぜなぜ赤い。赤い実を食べた。
青い鳥小鳥 なぜなぜ青い。青い実を食べた。」
だからキリンは緑なの。とね!
この事件は、私の美術家人生のはじまりだったかもしれない。