コラム
アリスの世界の不思議

 

「アリスの世界」は、つぶやきでできています。アリスはつぶやきながら、世界をグニャリと歪めていく「現在進行形」のところが好きです。たとえば物語の冒頭、時計を持ったウサギを追いかけて、ウサギ穴にゆっくり(「ゆっくり」の上に強調の点4つ)と落ちてゆくアリスは、飼い猫のダイナにエサをあげてこなかったことに気づきます。洞窟には、ダイナのエサになるものはない。はずですが、アリスは洞窟にはコウモリが居ることを思い出し、コウモリはネズミに似ているので、ネコはコウモリを食べるかもしれない。と発想を飛ばすのです、この自分勝手に論点をずらし安心してゆく過程がつぶやきの面白さなのです。もうひとつ、アリスがズンズン大きく姿を変え、訪問した家が破裂しそうになり、エントツからトカゲのビルを弾き出してしまうシーンがありますが、ビルは結局地面にたたきつけられ失神してしまいます。「トカゲの失神シーン」は、描くにはもっとも難しかったのですが、失神した顔が描けた時、私もやったとつぶやきました。ビルの失神シーンさがしてね。

 

山本容子


「The poor little Lizard, Bill」2008年、ソフトグランド・エッチング、手彩色 28×39.5cm